
TEQUILA SUNRISE LOVE BLUES
僕はまた
君と恋が
したいんだ
心のランタンに火をつけて
歳を重ねても、心はまだ灯りを待っている。夢に出てきた君をきっかけに、もう一度、恋を思い出すための老年恋愛ブルース。
ORIGINAL SONG
♫『僕はまた君と恋がしたいんだ』
心のランタンに火をつけて。
再生・ミュート・停止は上のピルボタンでも操作できます。音量はiPhone本体の音量ボタンで調整してください。
これは、
老年恋愛ブルースである。
歳を取ると、
恋なんて卒業した気になってしまう。
白髪も増えて、
身体も少しずつ言うことを聞かなくなる。
夢なんて、
とっくに見なくなったつもりでいた。
だけど、
ある夜。
夢の中に、
若かった頃の君が出てきた。
その瞬間、
心のどこかで、
小さなランタンが灯った気がした。
目次
楽曲の一節を、目次カードに。タップすると、ウイスパーエッセイへ進みます。
夢というものは不思議だ。
もう何十年も前の顔を、
昨日のことみたいに連れてくる。
若かった頃の君は、
夢の中で笑っていた。
あの頃と同じ顔で。
目が覚めたあと、
しばらく天井を見ていた。
歳を取ると、
思い出は遠くなると思っていた。
だけど本当は逆なのかもしれない。
人生の後半になるほど、
昔の灯りが、
静かに近づいてくる。
忘れたと思っていても、
心の深いところでは、
ちゃんと誰かを想っている。
若い頃の二人には、
根拠のない自信があった。
お金なんか無かった。
先のことも分からなかった。
でも、
怖くなかった。
ハニー。
そんな言葉を、
照れもせず口にしていた。
今思えば、
ずいぶん青臭い。
だけど、
あの頃の無敵感というのは、
人生の宝物なのかもしれない。
身体のことではなく、
「怖がらずに愛せる力」
なのかもしれない。
ダーリンなんて呼ばれていた男も、
今じゃすっかりターリンだ。
白髪も増えた。
老眼鏡も必要になった。
物忘れもする。
でも、
それを笑い合える相手がいるというのは、
実はすごいことなんじゃないかと思う。
若い恋には熱がある。
長い夫婦には、
味がある。
長く続くと「熱」より、
「味」になっていく。
気づけば、
身体のあちこちに、
人生が刻まれている。
シワ。
白髪。
疲れ。
若い頃みたいにはいかない。
でも、
それは負けじゃない。
ちゃんと生きてきた証拠だ。
歳を取るって、
悪いことばかりじゃない。
人の弱さに、
少し優しくなれる。
失うことではなく、
「時間が身体に残る」
ことなのかもしれない。
若い頃みたいな、
派手な恋じゃなくていい。
高級レストランじゃなくていい。
コンビニ帰りの夜道。
並んで歩く。
それだけでいい。
歳を取ると、
恋愛は「イベント」ではなく、
「安心」へ変わっていく。
どこかへ行きたかった。
歳を取ると、
「並んで帰る」
ことが嬉しくなる。
渋川での単身暮らしも、
十年を過ぎた。
ひとりの夜にも、
慣れたつもりだった。
でも、
時々、
部屋がやけに広く感じる夜がある。
冷蔵庫の低い音。
スマホの灯り。
静かな部屋。
孤独というのは、
ひとりでいることより、
音が少ないことなのかもしれない。
音の気配で、
「生きている実感」
を保っているのかもしれない。
人生には、
説明しにくい距離がある。
嫌いになったわけじゃない。
終わったわけでもない。
でも、
少し離れて生きている。
そんな関係もある。
人生は、
白か黒じゃない。
グレーのまま、
続いていく関係もある。
わけではなく、
「形が変わった」
だけの関係もある。
不思議なものだ。
夢の中では、
君はいつも若い。
時間は流れているはずなのに。
心の中には、
歳を取らない誰かが住んでいる。
そして時々、
その人が、
こちらを見て笑う。
記憶の中に、
「永遠の誰か」
を持っている。
もう、
激しい恋じゃなくていい。
湯呑み片手に、
くだらない話をする。
それだけで、
十分幸せだ。
若い頃には、
そんなこと、
分からなかった。
「刺激」より、
「安心」が、
恋の形になっていく。
人は、
歳を取ると、
夢を卒業した気になってしまう。
恋も、
ときめきも、
もう終わったことのように。
でも本当は、
心はまだ、
小さな灯りを待っている。
ランタンの火は、
消えていたんじゃない。
しばらく、
風が吹いていなかっただけだ。
歳を取ったから恋をしなくなるのではない。
「もう遅い」と思い込んで、
灯りを消してしまうのだ。
若返りたいわけじゃない。
白髪のままでいい。
シワのままでいい。
その顔は、
君と生きた時間だから。
若さだけが、
美しいわけじゃない。
人生を重ねた顔には、
別の灯りが宿る。
「美しさを失うこと」
ではなく、
「別の美しさになること」
なのかもしれない。
大きな愛の言葉じゃなくていい。
「愛してる」
を何度も言わなくてもいい。
また今度、
会いに行くよ。
それだけで、
十分な夜もある。
人生の後半には、
人生の後半の恋がある。
静かで、
照れくさくて、
でも、
ちゃんと灯っている恋が。
誰かを想って生きていく。
それは、
とても美しいことだと思う。
あとがき
歳を取ると、
恋を卒業した気になってしまう。
でも本当は、
心はまだ、
灯りを待っているのかもしれない。
僕はまた、
君と恋がしたいんだ。